一般的に「ふるさと納税」というと個人が自治体に寄付をする「個人版ふるさと納税」が連想されます。
2016年から法人版ふるさと納税として「企業版ふるさと納税」が制度化されています。この2つのふるさと納税を比較していきたいと思います。
少し歴史を紐解きながら、個人の寄付の「ふるさと納税」と法人版ふるさと納税である「企業版ふるさと納税」について触れていきます。
個人版ふるさと納税の歴史
個人版ふるさと納税の歴史は長く、2011年には東日本大震災の際、被災自治体に対して寄付をする手段として脚光を浴びました。
その後、トラストバンク社がYAHOO公金サービスと連携し、クレジットカードによるオンライン決済を含む、全国の自治体の紹介サイトである「ふるさとチョイス」を2012年に立ち上げ(クレカ決済連携は2013年)たことで市場規模は大きく拡大しました。
市場が拡大したポイントは3つあります。
1.寄付者の受付窓口となる「ポータルサイト」
2.効率よく寄付情報を処理する「システム」
3.たくさんの返礼品の配送管理やコールセンターなどを担う「運営代行事業者」
上記について、今までの経緯やプレーヤーについて、以下に解説していきます。
ふるさと納税ポータルサイト
ふるさとチョイスの市場シェアが8割を超えていた時期もありますが、現在では30程度のふるさと納税のポータルが存在し、ふるさと納税ポータルサイトの寄付額ランキングでは、「楽天ふるさと納税(2022年度ふるさと納税ポータルシェアNo1)」「さとふる(2022年度ふるさと納税ポータルシェアNo2)」「ふるさとチョイス(2022年度ふるさと納税ポータルシェアNo3)」となっています。
1,000億円以上の寄付を集めているサイトが4つあり、前述の3サイトに「ふるなび」を加えて、ふるさと納税の4大ポータルと市場関係者では呼ばれます。
最近のふるさと納税ポータルで伸びを感じるのが、航空会社のポータルサイトで優良な顧客基盤の存在が大きく、他のサイトはポイント還元やamazonギフト券のプレゼントなどでシェアの奪い合いをしている状況と言えます。
ふるさと納税システム
個人版ふるさと納税は個人からの寄付だったため、その件数が多く、管理するためのシステムや運営代行事業者が同時期に立ち上がっていたことがこの市場の拡大を支えたポイントです。
2013年当初、ふるさとチョイスでの申し込みやYAHOO公金の決済状況を管理するシステムは、エッグ社(鳥取県)のふるさと納税管理システムがデファクトスタンダードとして、全自治体の3割強で使われていました。
寄付管理システムも増え「do(シフトセブンコンサルティング社)」や「レジホーム(シフトプラス社)」などが市場のシェアを拡大し、ワンストップなどをオンライン化するなど高機能になっています。
ふるさと納税運営代行事業者(中間事業者)
個人版ふるさと納税は、寄付件数が多く、自治体担当者では非効率な側面が強かったため、専門の事業者に委託する流れが自治体の中でできました。
元々存在しなかった自治体の業務ではありますが、個人版ふるさと納税は、市町村における税収に占める割合も高く、その制度の有用性に気が付いた感度の高い自治体はふるさと納税の取り組みを強化したため、その委託を受ける運営代行事業者も多様化していきます。
単純に地域の第三セクターなど地場の事業者に任せる流れもありましたが、ネット販売のノウハウなど地域で賄うことが難しい現状もあり、ノウハウを持つ専業の運営代行事業者と連携する自治体が多い現状があります。
2013年当初は、RHトラベラー社(現:レッドホースコーポレーション社:アジア系の外資の買収により社名変更)が市場をリードする形で商品の発送などの業務を担っていきましたが、その後はそれぞれの独自性を出しながら、多くの会社が参入してきます。
ポータルサイトはネットの側面が強いため、元々amazonの運営などに強みを持った事業者との連携、観光に力を入れている自治体であれば、交流人口を増やす力を持った旅行会社との連携、地域に事業所などを作ることを条件にしながら地域の雇用を確保する形で参入を求める自治体があったりと多種多様なプレーヤーが存在しています。
企業版ふるさと納税の歴史
企業版ふるさと納税は、政策的に成功していた「(個人版)ふるさと納税」の法人版として生まれました。
ここでいう「政策的に」とは、東京一極集中の是正に向けた地域への再分配です。さらには、地域間・自治体間の競争や地域産業の活性化のきっかけにもなり、地域においてなくてはならない制度として定着しています。増えていた法人の内部留保を地域活性に使い、日本全体の活性化につなげる壮大な仕組みの第一歩です。
しかし、企業版ふるさと納税の制度開始時の背景として、返礼品競争が過熱し始めたタイミングであったため、過度に返礼品を規制する制度になっています。その後、使いにくいと言われていた一定の制限や税額控除額を高める形で2020年に制度改正がされています。(当時の制度改正に関する情報はほかのコラムで上げたいと思います。)
制度改正のタイミングで大きく知名度を上げて、市場が一定規模に拡大することを見込んでいましたが、ちょうどコロナの時期と重なり、制度としては不遇な時期を迎えます。
コロナにより人流が途絶えてしまったため、元々のつながりがあった創業者の出生地や工場が存在する地域へ寄付が多くを占めるようになります。過去の寄付の状況(ランキング)についてはこちらをご参照ください。
今後は、企業側は企業方針などに合わせた寄付を行う企業戦略、自治体側は地域での受け入れ態勢の構築など、制度の活用が広がっていくと考えています。
企業版ふるさと納税ポータルサイト
プロジェクトの紹介がされ、そのプロジェクトに対してオンライン上で寄付が完結するという意味でのポータルサイトは2023年7月現在「ふるさとコネクト(JTB社)」しか存在していません。
紹介をしていたり、寄付の申し込みフォームが存在しているサイトはありますが、ふるさとコネクトが自治体掲載数やプロジェクトの掲載内容の充実度なども含めてナンバー1です。
このサイト(river:リバー)も一部のポータルの機能を有して、寄付プロジェクトの動画紹介などをしていますが、寄付のオンライン決済についてはふるさとコネクトと連携しています。本サイト(river:リバー)では寄付の相談や自治体のプロジェクトの相談など、コンサルティング領域に近い取り組みを効率的に行うことができます。
企業版ふるさと納税での仲介役の重要性
個人版ふるさと納税の運営代行事業者(中間事業者)が、返礼品のポータルへの登録や寄付者への返礼品の発送管理を業務の中心で行っているのと比較すると、企業版ふるさと納税の仲介役となる存在は、プロジェクトの組成や寄付企業との寄付金の調整など業務範囲が広く、専門的な知識も要求されます。そのため、多くの事業者が参入してくるという状況ではありません。
(個人版)ふるさと納税と企業版ふるさと納税の比較
(個人版)ふるさと納税と企業版ふるさと納税に関しての違いについて考えてみましょう。
その言葉からも、企業版ふるさと納税が、法人のふるさと納税であることは分かります。
所管している省庁が、(個人版)ふるさと納税が「総務省」なのに対し、企業版ふるさと納税は、「内閣府」です。最近だと岸田内閣が進めるデジタル田園都市国家構想や経済財政諮問会議の骨太の方針などにも「企業版ふるさと納税」の文言は出てきて、企業版ふるさと納税は他の政策との連携を進めたいと国が考えている制度と言えます。
分かりやすい例だと自治体に対する補助金や交付金に対して、自治体負担分として「企業版ふるさと納税」を充てることができるものが多く存在することがそれを示しています。
企業版ふるさと納税は、「地域再生計画」という形で自治体から内閣府への申請が必要です。基本的には年3回、国への申請のタイミングがあるので、この申請により法人から企業版ふるさと納税という形で寄付を受付ができるようになります。
ふるさと納税シミュレーター
寄付金額については、(個人版)ふるさと納税も企業版ふるさと納税もシミュレーターが存在します。
(個人版)ふるさと納税は、総務省が以下の表で示しています。
ふるさと納税の仕組み「税額控除について」:総務省
企業版ふるさと納税については、法人はその資本金や従業員、事業内容により、多くの税制などの組み合わせがされていることから、(個人版)ふるさと納税のように簡単にシミュレーションをすることは難しいのですが、目安として本サイトとして以下で概算が分かります。
企業版ふるさと納税 税額控除シミュレーター
企業版ふるさと納税は、最低金額が10万円からということも(個人版)ふるさと納税との違いになります。
ふるさと納税の返礼品
最後に「返礼品」についてですが、(個人版)ふるさと納税の寄付を押し上げる理由になったポイントではありますが、企業版ふるさと納税では「返礼品」を認めていません。とはいえ直接的な返礼品でなくても、企業と自治体や地域とのパートナーシップのきっかけになったり、自治体が寄付の事実を公知することで企業の宣伝広告の効果が出たり、「返礼品」ではありませんが、十分な価値を感じることができる寄付になる可能性があります。
個人版ふるさと納税と企業版ふるさと納税の比較表
上記までの内容をまとめると以下になります。2023年8月6日時点の情報になるので、今後制度改正などにより変更なども考えられますが、地域がより発展し活性化する方向へ改正していくことを望みます。
この記事の作者
株式会社カルティブ 池田 清
小坪拓也riverサービスファウンダー