企業版ふるさと納税の必須要件「地域再生計画」完全ガイド
地域再生計画とは何か?
自治体が国に申請する重要な書類の一つに「地域再生計画」があります。 企業版ふるさと納税の担当者の方や、制度の活用を検討している企業の方であれば、必ず一度は耳にする言葉だと思います。

自治体が企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)の仕組みを使って企業から寄附を受け入れるためには、この「地域再生計画」を作成し、内閣総理大臣からの認定を受けることが必須条件となります。
制度が創設された当初は、この地域再生計画の申請自治体が少なく、寄附を受け取ることができる自治体は今ほど多くありませんでした。しかし、現在では制度が使いやすくなり(後述する「包括的な認定」など)、全国の非常に多くの自治体が認定を受け、積極的に寄附を募集しています。
法律上の根拠としては、「地域再生法(平成17年法律第24号)」の第5条第1項に規定されており、原文には以下のように記載されています。
(地域再生計画の認定)
第五条 地方公共団体は、単独で又は共同して、地域再生基本方針に基づき、内閣府令で定めるところにより、地域再生を図るための計画(以下「地域再生計画」という。)を作成し、内閣総理大臣の認定を申請することができる。
出典:地域再生法
条文に「単独で又は共同して」とある通り、この計画は1つの自治体だけでなく、複数の自治体が連携して共同で作成・申請することも可能です。広域的な地方創生プロジェクトを行う場合にも、この枠組みが活用されています。
つまり、企業版ふるさと納税における地域再生計画とは、単なる事務的なお役所書類ではなく、「私たちの地域にはこんな課題があり、この事業を通じて地方創生を実現します」という、国や企業に対する宣言として考えると地域再生計画が読みやすくなります。
誰が、いつ申請できるの?(申請主体とスケジュール)
地域再生計画は、基本的に全国の多くの自治体が申請可能ですが、対象外となる自治体の要件(申請主体から除外される条件)が定められています。
具体的には、以下の要件に当てはまる自治体は、企業版ふるさと納税の対象となる地域再生計画を申請することができません。
- 都道府県の場合: 普通交付税の「不交付団体」
- 市町村の場合: 普通交付税の「不交付団体」であり、かつ、全域が地方拠点強化税制の支援対象外地域(首都圏や近畿圏の既成市街地など)に指定されている団体
逆に言えば、これらに該当しない大部分の自治体は、単独で、または複数の自治体が連携・共同して申請することが可能です。なお、不交付団体に該当するかどうかは、事業を実施しようとする年度の「前年度」の状況で判断されます。
申請の受付スケジュールについては、原則として毎年度「5月、9月、1月」の年3回を目途に内閣府で実施されます。 具体的な締め切り等のスケジュールは各回ごとに内閣府から公表されますが、企業側からの寄附のタイミングや事業の緊急性など、特別の事情がある場合には個別に相談することも可能とされています。過去には、新型コロナウイルス関連の地域再生計画などで臨時の受付が行われた事例もあり、実情に配慮した対応枠も用意されています。
令和2年度からの「包括的な認定」
地域再生計画の実務を理解する上で、非常に重要なポイントとなるのが令和2年度(2020年度)に行われた制度の改正です。

令和2年度税制改正 企業版ふるさと納税の拡充・延長 別紙1より抜粋
制度創設当初からしばらくの間は、寄附の対象となる予算事業を年度ごと・事業単位で細かく特定し、詳細な事業内容を地域再生計画に記載して国の認定を受ける方式(個別認定)がとられていました。そのため、自治体が新しいプロジェクトを立ち上げたり、事業内容を変更したりするたびに計画の変更認定手続きが必要となり、実務上の大きな負担や運用の硬直化が課題となっていました。
この課題を解決するため、令和2年度から手続きが大幅に簡素化され、「包括的な認定」の仕組みが導入されました。
「包括的な認定」とは、個別の予算事業単位で細かく記載するのではなく、自治体が策定している「地方版総合戦略」に位置付けられた地方創生事業であること(総合戦略に掲げる基本目標や基本的方向に適合していること)が確認できる程度の包括的な記載で足りる、とする仕組みです。地方版総合戦略において基本目標等に紐づく施策の概要があれば、それを転記・準用するような記載でも申請が可能となりました。
この「包括的な認定」への移行により、企業版ふるさと納税の活用環境は大きく変化しました。
- 柔軟でスピーディな事業展開が可能に
個別事業ごとの詳細な縛りがなくなったため、包括的に認定された基本目標の枠内であれば、地域のニーズに合わせた新規事業の追加や事業内容のマイナーチェンジにも柔軟に対応できるようになりました。 - 企業からの申し出に即応できる環境の整備
企業から「こうした事業を支援したい」という寄附の提案を受けた際、それが包括認定されている施策の範囲内(地方版総合戦略の施策内)であれば、改めて国に計画変更を申請することなく、タイムリーに寄附の受け入れ手続きへ進めるようになりました。
現在、全国の自治体で作成されている地域再生計画の多くはこの「包括的な認定」を活用して策定されており、企業版ふるさと納税が全国的に活発化した最大の転換点と言えます。
地域再生計画の様式徹底解剖!記載すべき6つの必須項目(自治体職員向け)
企業版ふるさと納税の適用を受けるための地域再生計画では、申請書の「第5章の特別の措置を適用して行う事業」という項目に、以下の6つの必須事項を記載することが求められます。
前述の「包括的な認定」の仕組みにより、個別のプロジェクトレベルまで詳細に書き込む必要はなくなりましたが、各項目には明確なルールが存在します。
a. 事業の名称
実施する事業の名称を記載します。地方版総合戦略の基本目標等に沿って「〇〇事業」といった形で記載します。
b. 事業の内容
その事業を通じて何を行うのかを記載します。ここが「包括的な認定」の肝となる部分で、地方版総合戦略に掲げる基本目標や方向性に適合することが確認できる程度の記載で足ります。総合戦略の施策の概要をそのまま転記して準用することも可能です。
c. 事業の実施状況に関する客観的な指標(重要業績評価指標:KPI)
事業の成果を測るための数値目標(KPI)を設定します。 ここでのポイントは、単なる「イベントの開催回数」などの行動実績ではなく、「アウトカムベース(事業の結果として生じた成果)」の指標を設定しなければならない点です。例えば「新規雇用創出数」や「移住者数」などが該当します。このKPIも、地方版総合戦略で設定している数値目標と同一の指標を用いることができます。
d. 寄附の金額の目安
実務上、非常に重要な項目です。「目安」と書かれていますが、これは単なる希望額や目標額ではありません。「事業費が確定する前に、自治体が企業から先行して受領できる寄附額の上限目安」を意味します。
自治体は、事業費のうち確実に執行が見込まれる額以下の金額をここに設定します。なお、事業費の範囲内であれば、結果的にこの目安額を超えて寄附を受領することになってもペナルティはありませんが、最終的な事業費を上回って寄附を受領することは禁じられているため、適正な見積もりと管理が必要です。
e. 事業の評価の方法(PDCAサイクル)
寄附を活用して実施した事業が効果的だったのかを検証する仕組みを記載します。 重要なのは「自治体内部だけで評価を完結させないこと」です。必ず、行政以外の第三者(有識者や産官学金労言の代表者など)を参画させた体制で客観的な評価(効果検証)を実施し、次年度以降の事業改善につなげるPDCAサイクルを整備していることが求められます。
f. 事業実施期間
事業を実施する期間を記載します。 企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)自体の適用期限は現在「2028年(令和10年)3月31日まで」とされていますが、事業実施期間の終期をそれ以降に設定することも可能です。ただし、根拠となる「地方版総合戦略」の終期を越えて期間を設定することはできない点に注意が必要です。
寄附を「基金」に積み立てる場合の地域再生計画
企業版ふるさと納税で受け入れた寄附金は、原則としてその年度内の事業費に充てることが求められます。しかし、複数年度にわたる大規模なプロジェクトを実施する場合や、将来の事業実施に向けて資金を準備しておきたい場合もあります。
そのようなケースに対応するため、一定の厳格なルールの下で、寄附金を自治体の「基金」に積み立てることが認められています。 ただし、自治体が持つ一般的な財政調整基金などに漫然と貯金することはできず、以下の要件と運用管理を満たさなければなりません。
1. 基金の要件(どのような基金ならOKか?)
- 取り崩し型であること
積み立てた元本を取り崩して事業費に充てるタイプの基金でなければなりません。 - 目的が条例で限定されていること
その基金の設置根拠となる条例において、目的が「特定の事業」のみに限定されていることが明確に定められている必要があります。複数の事業を対象とする場合でも、すべてが地域再生計画に記載された事業でなければなりません。 - 支出が確実であること
後年度に確実に事業が実施され、支出が行われる見込みがあることが必須です。
2. 運用管理のルール
- 過剰な積立の禁止
見込まれる支出額を超えるような過剰な積立を行うことはできません。 - 寄附額の割合ルールの遵守
各年度の基金への積立額のうち、企業からの寄附が占める割合が5割を超える場合、「過去の執行率等を踏まえた最低限の執行見込額」の範囲内に寄附の受領を抑えるなど、事業終了時に「寄附の累計額」が「事業への支出の累計額」を上回らないよう確実な管理が求められます。 - 実績に応じた調整
実際の支出額が想定より少なかった場合は、以降に新たに積み立てる額を引き下げるなどの調整が必要です。
3. 認定申請時の追加手続きと毎年度の報告
寄附を基金に積み立てる事業として地域再生計画を申請する場合、通常の申請書類に加えて、「基金の設置条例(議決前の場合は条例案)」や、積立・取り崩しの計画を示した「基金執行計画・実績表」の提出が必要になります。 また、事業開始後も、積み立てた寄附分がすべて事業へ支出され完了するまでの間、国に対して毎年度の報告を継続しなければなりません。
このように、基金への積立は非常に便利で有効な手段(奨学金返還支援基金への積立てなども対象になります)である一方、事前の条例整備や厳格な残額管理が求められるため、自治体内の財政担当部門との綿密な連携が不可欠です。
毎年の「実施報告」の実務
地域再生計画の認定を受けたら、それで手続きが完了するわけではありません。計画に基づき事業を実施、あるいは寄附を受領した自治体は、地域再生法施行規則に基づき、毎会計年度終了後に国(内閣総理大臣)へ「実施報告」を行う義務があります。
仮に寄附金の受け入れ実績が0円だった年度であっても、有効な計画を保有している以上は「実績なし」として報告書類を提出する必要があります。実施報告の内容は内閣府のホームページ等で広く公表されるため、正確かつ透明性の高い実務処理が求められます。
ここでは、実施報告において自治体の担当者が特に誤りやすいポイントや、最新の運用ルールを解説します。
1. 基本ルール:数値はすべて「決算額ベース」
国へ報告する寄附額や事業費などの計数は、すべて会計年度終了後(出納閉鎖後)の「決算額ベース(確定した額)」で報告しなければなりません。予算額や見込み額で記載しないよう注意が必要です。
2. パターン別:「事業費」と「寄附額」の計上ルール
企業版ふるさと納税の実施報告では、事業の運用方法によって「事業費」の捉え方が異なります。実務で混乱しやすい主なパターンは以下の通りです。
- 事業を翌年度に繰り越した場合
「寄附額」は翌年度に繰り越した分も含めて当年度の実績として計上し、「事業費」には翌年度に繰り越した企業版ふるさと納税を特定財源として充当している事業費の額を計上します。 - 基金に積み立てた場合
「事業費」には基金への積立額(他の財源と合わせた全体の積立額)を記載し、「寄附額」には受領した寄附金額を記載します。また、通常報告書に加え、積立・取り崩しの実績を示す「基金執行計画・実績表」を併せて提出する必要があります。 - 人材派遣型や物納(現物寄附)の場合
人材派遣型を活用した場合は、一般会計から支出した人件費を事業費として計上します。物納の場合は、企業に交付した受領証に記載された算定価額を事業費および寄附額として計上します。
3. 寄附企業情報の正確な記載(法人番号の照合)
報告書類において例年もっとも不備や誤りが多いのが、寄附企業の「法人名」と「法人番号」です。 報告にあたっては、必ず国税庁の「法人番号公表サイト」等で最新の情報を確認し、正式な商号と13桁の法人番号を正確に記載する必要があります。企業の支店名や営業所名を法人名に含めてしまったり、同名別会社の法人番号を誤って記載したりしないよう徹底的な確認が求められます。
4. 契約実績の報告と透明性の確保
近年、入札・契約手続きの公正性や透明性を確保する観点から、実施報告におけるチェック機能が強化されています。 寄附を行った企業やそのグループ会社(関係会社)との間で、事業に係る「随意契約」や「一者入札」などを行った場合、一定の要件に該当するときは契約実績の報告や、自治体ホームページ等での企業名・契約相手方の公表手続きが義務付けられています。
地域再生計画は地方創生を実現するための「設計図」
ここまで、企業版ふるさと納税の必須要件である「地域再生計画」について、申請の基本から記載項目、基金の活用、そして認定後の実施報告の実務まで詳しく解説してきました。
地域再生計画は、単に国から税制優遇の許可を得るための「事務的なお役所書類」ではありません。「私たちの地域にはこのような課題があり、この事業を通じて、〇〇年までにこれだけの成果(KPI)を出します」という、地域の未来を描いた「設計図」であり、企業に向けた「プレゼン資料」でもあります。
令和2年度の「包括的な認定」の導入により、制度は格段に使いやすく、柔軟に進化しました。 一方で、今回解説したような「寄附額の目安の適切な設定」「基金の厳格な運用管理」、そして「決算ベースでの正確な実施報告や契約の透明性確保」など、認定を受けた後の適正な実務管理がこれまで以上に重要になっています。
自治体の担当者の皆様へ
地域再生計画を安全かつ最大限に活用するためには、事業部門だけでなく、財政部門や契約部門など庁内全体の連携が不可欠です。本コラムでご紹介したルールを正しく理解し、魅力的な地方創生プロジェクトの推進に役立ててください。
支援を検討される企業の皆様へ
寄附先を検討する際は、ぜひ各自治体が公表している地域再生計画や実施報告書に目を通してみてください。そこに掲げられた課題認識やKPI、そして客観的な事業評価の仕組み(PDCA)を確認することは、自社の想いを託すにふさわしい、有意義な寄附先を見つけるための重要なヒントになるはずです。
本コラムが、企業版ふるさと納税を通じた地方創生のさらなる活性化と、安全で効果的な制度活用の一助となれば幸いです。
定期的に「地域再生計画作成ワークショップ」を自治体の皆様を限定して行っています。
セミナーページから、探してお気軽にご参加ください。
https://cpriver.jp/seminar/
株式会社カルティブ 池田 清