農山漁村の官民共創とは?取組証明書など4つの活性化アプローチを農林水産省が解説
公開日:2026年7月11日|執筆:river編集部(株式会社カルティブ)
農林水産省が進める農山漁村の官民共創とは、地域外の企業や学生など多様な主体の活力を農山漁村に取り込み、担い手不足や集落機能の低下といった課題の解決を図る取り組みです。本記事は、農林水産省の担当者による解説をもとに、4つのアプローチ(プラットフォーム形成、学生の参画促進、中間支援組織によるマッチングとAI活用、取組証明書・インパクト証明書)と、企業版ふるさと納税と併用された事例を整理しています。

本記事は、農林水産省 農村振興局 農村活性化推進室が登壇した「官民共創の仕組みを活用した地域課題解決支援」のアーカイブ動画の内容を網羅的に整理した紹介ページです。まずはテキストを通して取り組みの全体像や具体的な支援策を把握し、社内・庁内での検討資料としてご活用ください。その上で、制度立案者の熱意や詳細なニュアンスにつきましては、ぜひページ下部の動画本編よりご視聴されることをお勧めいたします。
※本記事は2026年5月26日のセミナー開催時点の情報です。最新情報は農林水産省の公式サイトをご確認ください。
1. 農山漁村が抱える課題:農業者の高齢化と小規模集落の増加
農林水産省では、食料安全保障の確保というミッションに加え、「農山漁村のコミュニティ維持」を重要な課題として位置づけています。
現在の農業従事者の平均年齢は68~69歳と高齢化が進んでおり、大幅な担い手不足に直面しています。また、集落の総戸数が9戸以下になると、農業用排水路の保全や伝統文化の保存といった「集落活動」が急激に低下する傾向があります。直近20年間で、このような小規模集落の割合は中山間地域を中心に約2倍に増加しています。
こうした現状を打開するため、農林水産省は、地域外の企業や学生など多様な主体の活力を農山漁村に取り込む「官民共創の仕組み」を推進しています。
2. 官民共創による農山漁村の地域課題解決の4つのアプローチ
企業や多様な主体と連携し、地域の実情に応じた課題解決を図るため、以下の4つの取り組みが展開されています。
アプローチ1:農山漁村経済・生活環境創生プラットフォームによる情報発信
関係者が集まり、情報交換を行う場として「農山漁村経済・生活環境創生プラットフォーム」が運営されています。現在、約650の企業や自治体などの団体が参画しています。
また、半年に1回のペースでシンポジウムを開催し、他省庁の取り組みや先進企業の事例を紹介することで、多様な主体の連携を促進しています。
アプローチ2:学生派遣プログラムによる学生の参画促進
地域活性化サークル等で活動する学生を、農山漁村の課題解決に貢献する有力な主体として位置づけています。
学生の活動は卒業に伴い終了してしまうため、活動の継続性をいかに確保するかが課題です。これを解決するため、海外留学支援制度のような「企業を巻き込んだ農山漁村への学生派遣プログラム」の構築が検討されています。
アプローチ3:中間支援組織(案件形成拠点)によるマッチングとAI活用
農山漁村側(課題)と企業側(ソリューション)の距離を縮めるため、両者をつなぐ「中間支援組織(案件形成拠点)」の設置が進められています。
- 地域金融機関や都道府県の活用:情報センターとしての役割を持つ地域金融機関や都道府県が間に入り、課題の明確化とマッチングを行います。今年度(2026年度)は全国40~50地域で実証が行われる予定です。
- インパクト創出ソリューション実装プログラム:国が直接間に入り、地域の課題解決に資する企業のソリューションを選定・マッチングする取り組みです(昨年2025年度)は11のソリューションを選定)。
- AI(LLM等)の活用:人口減少が進む中での生産性向上策として、AI活用が推進されています。事例として、愛知県豊川市の菊農家がAIを活用し、熟練農家の「暗黙知(細かな温度・環境管理のノウハウ等)」をデータ化・継承することで収穫量を飛躍的に伸ばした取り組みなどが紹介されています。
アプローチ4:取組証明書とインパクト証明書(国による2つの証明書制度)
農山漁村の課題解決に貢献する企業の取り組みに対して、国が第三者として評価・証明する制度です。企業の取り組みは短期的には財務的リターンを生みにくく、社内での理解や継続性の確保が難しいという課題に対応するために創設されました。
取組証明書
取り組み証明書は農山漁村の課題解決に貢献する具体的な活動(アクティビティ)を実施した企業に対して発行されます。昨年度(2025年度)は50企業が取得し、データ活用による生産性向上、生物多様性の確保、人材育成など多様な取り組みが対象となりました。社内稟議の円滑化や対外的なPRに活用されています。
参考:農林水産省「農山漁村振興への貢献活動に係る取組証明書」
インパクト証明書(2026年度より開始)
インパクト証明書は活動の実施にとどまらず、その取り組みが具体的にどのような効果(インパクト)を生み出したか、またそれをモニタリングする社内体制が構築されているかを含めて厳格に審査・証明する制度です。より説得力のある対外的な評価ツールとしての活用が期待されています。
参考:農林水産省「農山漁村振興への貢献活動に係るインパクト証明書」
3. 企業版ふるさと納税と取組証明書を併用した青森県弘前市の事例
本取り組みの枠組みは、「企業版ふるさと納税」を通じた地域課題解決とも連動しています。
例えば、青森県弘前市では、リンゴ農家の深刻な労働力不足を解決するため、農業ボランティアツアーを実施しました。これに伴い、リンゴ・シードル産業の課題解決や活性化を図るため企業版ふるさと納税制度が活用され、令和7年度には「農山漁村地域への貢献活動に係る取組証明書」の取得が行われています。
農林水産省セミナー動画:官民共創による農山漁村の課題解決支援(約28分)
本記事で全体像をご確認いただいた後は、農林水産省担当官の言葉で直接制度の目的や実例のニュアンスに触れていただける、以下のアーカイブ動画(約28分)をぜひご視聴ください。
- [00:03:53] 農山漁村が抱える現状課題と背景(農業者の高齢化・集落の状況)
- [00:05:36] 企業等と連携した地域課題解決に向けた4つのアプローチ
- [00:11:01] 中間支援組織を通じた企業と地域の間を繋ぐマッチング体制
- [00:15:50] 農業分野におけるAI活用と熟練技術の継承事例
- [00:17:22] 国による証明書制度(取組証明書・インパクト証明書)の概要と目的
登壇者情報・開催概要
- 登壇者:農林水産省 農村振興局 農村計画課 農村活性化推進室 係長 村山 朋哉 氏
- 登壇者略歴:令和4年に農林水産省に入省。米、野菜等の多様な品目の生産振興に取り組む部局での業務を経て、公共事業を中心とした農林水産省の予算編成業務に従事。令和7年7月から現職。国が企業等に対して証明書を発行する取組を中心として、官民共創による農山漁村の課題解決支援に向けた施策を進める。
- 開催日:2026年5月26日
まとめ
農林水産省の官民共創支援は、農業者の高齢化と小規模集落の増加という農山漁村の課題に対し、地域外の企業や学生の活力を取り込むことで課題解決を図る取り組みです。約650団体が参画するプラットフォームでの情報発信、学生派遣プログラムの検討、地域金融機関・都道府県や国が間に入る中間支援組織でのマッチング、AIによる熟練技術の継承、そして取組証明書・インパクト証明書による国の第三者評価という4つのアプローチで構成されています。青森県弘前市の例のように、企業版ふるさと納税と取組証明書を組み合わせた活用も始まっています。
よくある質問
Q. 取組証明書とインパクト証明書は何が違いますか?
A. 取組証明書は、農山漁村の課題解決に貢献する具体的な活動を実施した企業に対して発行されるものです。インパクト証明書は活動の実施にとどまらず、その取り組みがどのような効果を生み出したか、効果をモニタリングする社内体制があるかまで含めて審査・証明する制度で、2026年度(セミナー開催時点の「今年度」)から開始されました。
Q. 中間支援組織(案件形成拠点)とは何ですか?
A. 農山漁村側の課題と企業側のソリューションの距離を縮めるため、両者をつなぐ組織です。情報センターの役割を持つ地域金融機関や都道府県が間に入る形と、国が直接間に入ってソリューションを選定・マッチングする「インパクト創出ソリューション実装プログラム」の形があります。
Q. 企業版ふるさと納税とはどのように関係しますか?
A. 本取り組みの枠組みは企業版ふるさと納税を通じた地域課題解決と連動しています。青森県弘前市では、リンゴ農家の労働力不足解消に向けた農業ボランティアツアーに関連して企業版ふるさと納税が活用され、令和7年度に取組証明書を取得しています。
Q. 取組証明書とは何ですか?
A. 農山漁村の課題解決に貢献する具体的な活動を実施した企業に対して、農林水産省が第三者として評価・発行する証明書です。昨年度(2025)は50企業が取得し、社内稟議の円滑化や対外的なPRに活用されています。
この記事について
内閣府主催「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の分科会として、株式会社カルティブが企画・運営する『地方創生制度活用シリーズセミナー』。本シリーズは、各省庁で制度を企画・運営する担当者から、制度の詳細な仕組みのみならず「施策に込めた想い」までを直接学べる場として開催しています。
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