骨太の方針2026を読み解く:【第5回】防災・減災・国土強靭化の最前線:現場視点で描く持続可能な地域レジリエンス

1. 「防災庁」創設と「令和の国土強靭化」が意味するもの

骨太の方針2026では、激甚化・頻発化する自然災害から国民の生命・財産を守り抜くため、「令和の国土強靭化対策」を断行することが明記されました。具体的には、テクノロジーを駆使したハード・ソフト両面の対策強化に加え、「防災庁」の設置を通じて、事前防災から復旧・復興までを一貫して担う司令塔機能の強化が打ち出されています。

また、衛星やAI技術を活用した消防・防災DXの推進や、民間資金・民間活力を最大限に活用した避難生活環境の抜本的改善など、官民連携によるアプローチが強く求められています。自治体にとっては、これまでの「公助」に依存した防災体制を見直し、企業の技術や資金(共助)を組み込んだ新たな地域レジリエンスの構築が急務となっています。

2. 多角的視点:防災インフラを「官民共同投資」とする構造

防災事業は「有事のための備え(コスト)」と見なされがちであり、企業の事業化が難しい領域とされてきました。この課題を克服するための構造を、自治体と企業の決裁者視点で整理します。

視点自治体(フィールド・インフラ提供側)の評価企業(技術提供・サービス運用側)の評価
メリット財政負担を抑えつつ、最新技術を用いた高度な防災体制を構築できる。有事における確実な復旧・支援体制の確保。自社の技術を社会実装する実証フィールドの獲得。ESG投資としての企業価値向上と、BCP(事業継続計画)ソリューションとしての実績構築。
デメリット・リスク特定の企業技術に過度に依存するリスク。有事の際にシステムが稼働しない(実効性が伴わない)懸念。「有事」のみを想定したビジネスモデルでは採算が合わず、事業として継続できない(撤退リスク)。
コスト協定締結や地域住民を巻き込んだ訓練・合意形成にかかる人的・時間的リソース。機材の配備、システム開発、および地域における平時の保守メンテナンス費用。
実現可能性を高める工夫防災機能を「日常の行政サービス」の中に組み込み、住民が平時から使い慣れる環境を整える。【フェーズフリーの徹底】 有事専用の事業ではなく、平時のビジネス(物流、通信、ヘルスケア等)として収益化できるモデルを設計する。

3.成功と失敗の分かれ目

2011年の東日本大震災をはじめ、被災現場の復興支援のなかで経験したのは「平時に使われていないものは、有事にも絶対に機能しない」ということです。私の経験の中でも被災した多くの地域に衛星電話の配備がされていましたが、日常の利用がないため、充電すらされていない(=緊急時に使えない)ことを見てきました。

  • 【成功例】フェーズフリーな物流・エネルギー網の構築
    津波による甚大な被害を経験した、東北地方の沿岸部にある人口約3万人規模の市の事例です。同市では、企業版ふるさと納税を活用し、民間企業と連携してドローンやEV(電気自動車)を用いた物流網を構築しました。平時は高齢者への買い物支援や医薬品配送として収益を生み出しつつ、災害時にはそのまま孤立集落への救援物資輸送や非常用電源として機能する「フェーズフリー」な構造となっています。日常の経済活動に組み込まれているため、機材のメンテナンスやオペレーターの訓練が自然に行われています。
  • 【失敗例】「有事専用」による運用の形骸化
    ある中山間地域の町(人口約5千人)では、国の補助金を活用して高額な災害用浄水装置や専用ドローンを購入し、役場の倉庫に配備しました。しかし、有事専用であるため日常的な使用機会がなく、数年後の土砂災害発生時には「バッテリーが劣化して動かない」「操作できる職員が異動して不在」という事態に陥り、全く使い物になりませんでした。導入すること自体が目的化し、持続可能な運用体制が欠如していた典型例です。

4. 持続可能なレジリエンスへの3ステップ

「身近な人を幸せにできれば、広く幸せな人が増える」という理念の下、住民の命と日々の暮らしを守り抜く強靭な地域社会を築くために、以下のステップをご提案します。

  1. 「フェーズフリー」を前提とした事業設計
    自治体および企業は、防災事業を立案する際、「それは平時の地域課題(高齢化、移動困難、コミュニティの希薄化など)の解決にも寄与するか」を厳格に評価してください。日常的に価値を生み、住民に使い込まれるサービスこそが、最強の防災インフラとなります。
  2. ボランティア協定から「ビジネスパートナーシップ」へ
    災害時における企業との応援協定は重要ですが、企業の善意(ボランティア)に依存した仕組みは長続きしません。自治体は、平時の行政サービスの一部をアウトソーシングするなど、企業側が適正な利益を得られる「事業契約」として防災体制をデザインし直す必要があります。
  3. 企業版ふるさと納税を通じた初期投資の実行
    フェーズフリーな事業モデルを立ち上げるための実証実験や初期インフラ整備には、資金が必要です。ここで、戦略的共同投資としての「企業版ふるさと納税」を活用します。企業側にとってはR&D投資としての意義があり、自治体にとっては財政負担を抑えながら次世代のレジリエンス基盤を構築する現実的な手段となります。
骨太の方針2026を読み解く:【第5回】防災・減災・国土強靭化の最前線:現場視点で描く持続可能な地域レジリエンス

災害の脅威が日常化する中、防災はもはや行政(公助)だけで担える領域を超えています。自治体と企業が対等なパートナーとして、日常と非日常をシームレスに繋ぐ新たな経済循環を生み出すことが、真の国土強靭化への第一歩です。

株式会社カルティブ 池田 清 (プロフィール

【参考】株式会社カルティブは日本BCP株式会社と連携した「地域BCP」の取り組みを行っています。

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