環境省に聞く、自然共生サイトへの支援と企業版ふるさと納税の活用

【画像】自然共生サイトに認定されている北海道下川町「美桑ヶ丘」の風景
環境省では、ネイチャーポジティブの実現に向け、2023年度から、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を自然共生サイトに認定する制度を開始しました。2025年度には自然共生サイトの活動を支援する方を対象とする「自然共生サイトに係る支援証明書」発行の本格運用を開始し、支援を受けたい自然共生サイトと、自然共生サイトへの支援を希望する方との連携を促進するための支援マッチングにも取り組んでいます。新しい形での環境保全活動への支援のあり方と、企業版ふるさと納税の活用などについて、環境省の担当者にお話を伺いました。
ネイチャーポジティブと30by30。生物多様性保全の取り組みの現在地
「現在、国内はもちろん世界的に生物多様性の損失が進んでいる状態にあります。これを食い止めるための取り組みが様々な形で進められてきましたが、十分に改善していないというのが実態です。すでに、生物多様性の損失をストップしただけでは自然と共生した社会の実現はできない状態にあり、損失の流れを止めて回復に反転させる必要があります。これがネイチャーポジティブという考え方です」と話すのは、環境省自然環境局自然環境計画課地域ネイチャーポジティブ推進室の吉田宗史さん。環境省の自然保護官として、これまで全国各地の国立公園などの管理に従事し、現場での自然環境や生態系保全の経験が豊富です。
吉田さんによると、これまでの自然保護や環境保全は、特定の場所で限られた人たちが特別な生き物を守るイメージでしたが、この考えから抜け出すことが必要といいます。「ネイチャーポジティブの実現のためには、社会活動や生産活動の場において、生物多様性をどのように維持していくかということを常にすべての人が考える社会への変化が必要です」
その実現のための数値目標のひとつが30by30(サーティバイサーティ)目標です。これは、2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の2030年グローバルターゲットのひとつで、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようという目標です。

【画像】自然共生サイトの認定状況
自然共生サイトを認定することでネイチャーポジティブを実現
「ここで陸と海の30%という具体的な数字が出てきましたが、日本においては国立公園や鳥獣保護区など法律で定められた保護地域があります。しかし、これらの制度には馴染まないものの、生物多様性保全のために重要な場所もあるので、そこで出てきた考え方がOECMです」と吉田さん。OECMとは、Other Effective area-based Conservation Measuresの頭文字で「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域」のことを指します。「このOECMを登録するにあたり日本で運用している方法が自然共生サイトです。流れとしては国が自然共生サイトを認定して、それをOECMとして国際的なデータベースに登録していきます」
では自然共生サイトとはどのような場所が該当するのでしょうか。「狭い国土のなかで多くの人が暮らす日本においては、昔から自然とともに暮らしてきたという歴史があります。手つかずの自然だけでなく、人が手を加えながら環境を維持することで生物多様性にも貢献してきた場所も存在していて、例えば企業がもっている森林や、神社やお寺、農地を含む里山のような場所などです。こういった場所を自然共生サイトとして認定していくことで30by30に貢献し、ネイチャーポジティブの実現に結びつけていこうというのが現在の取り組み状況です」
自然共生サイトは2026年6月末時点で610カ所が認定されており、制度が始まってからは年々増加が続いています。

【画像】支援証明書の実際の発行事例
支援証明書と支援マッチングでネイチャーポジティブを加速~環境省の取り組み~
こうして始まった自然共生サイトの取り組みですが、企業やNPO団体など、民間の方々が主体となって活動を進めているといいます。ところが認定を受けたものの、その後の活動に課題をもつ自然共生サイトもあり、認定後の活動をより充実させるための取り組みとして誕生した制度が支援証明書です。「これは、認定された自然共生サイトに対して金銭的・人的支援をした場合に公的な証明書を発行するというものです。支援証明書を取得することで、生物多様性保全への貢献が公的に証明されることとなり、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示やCSR活動のPRにメリットがあります」。また、保護すべき土地をもっていない企業などが生態系保全に貢献できる受け皿としての側面も併せもっており、企業からの自然共生サイトへの支援が加速することが期待されています。
また、600を超える自然共生サイトのなかから、企業が支援先を選ぶのは現実的には難しい面があります。反対に、支援を求める自然共生サイトが企業に働きかけるのはさらに難しいといえます。そこで環境省が取り組んでいるのが支援マッチングです。「支援を希望する自然共生サイトにどういった支援を望むのかの資料を作っていただきWebサイトに掲載しています。それを見た企業から支援の働きかけがあればおつなぎしていますが、実際には受け身の部分が多く、実績も充分とはいえません。支援証明書制度自体の認知度を上げる必要もありますし、まだまだ課題が多いところではあります」

【画像】企業版ふるさと納税の実際の活用事例
企業版ふるさと納税を活用して自然共生サイトへの支援を加速
企業による自然共生サイトへの支援や支援証明書の発行に関して、非常に相性がよいと考えられる制度が企業版ふるさと納税です。「ご存知のとおり、企業版ふるさと納税は企業が自治体のプロジェクトに対して支援をするという取り組みです。前述したように、自然共生サイトは様々な団体が主体となって取り組んでいますが、自治体が取り組んでいる例もあるので、自治体が自然共生サイトの活動を企業版ふるさと納税の対象事業としてプロジェクトを立上げれば、寄付した企業に支援証明書を発行可能な仕組みにすることもできます」と吉田さんは話します。
では、企業やNPO法人などが活動している自然共生サイトの場合はどうでしょうか?「例えば、NPO法人が活動している自然共生サイトを自治体が応援したいといったときに、中間支援的な形で企業版ふるさと納税を使うことで支援証明書制度の活用が可能になると考えています。寄付はいったん自治体に入りますが、自治体が寄付金を使って自然共生サイトの支援活動を行うことで企業が間接的に支援する形に整理することができます」
まだ自然共生サイトの支援に企業版ふるさと納税を活用している自治体の数は多くないという吉田さん。「30by30への貢献や支援証明書が企業版ふるさと納税の後押しになると良いと思っています。現状ではどのプロジェクトが自然共生サイトに対する支援なのかうまく検索できる仕組みがありません。自然共生サイトであることがPRになるように寄付募集プロジェクトの名前を工夫していただき、企業の目に留まりやすくなると普及していくと考えています」

【画像】名古屋市の自然共生サイトへの支援活動の様子
自治体や地方環境局と連携して制度の拡大を目指す
現在、支援証明書の発行につながっている事例の7割ほどが、自治体が管理する自然共生サイトへの支援といいます。「支援する側から見ると、自治体の取り組みを支援することで地域の目標に直接的な貢献ができると捉えていると考えられます。そういう意味では、自治体に管内の自然共生サイトへの支援を積極的に取り組んでいただくことで、制度の普及が加速すると考えています」と吉田さん。
また、縁もゆかりもない場所への支援はハードルが高いため、地域内での支援マッチングを促進する必要もあるといいます。「これまでは、環境省の本省が制度の普及やマッチングに一元的に取り組んできましたが、今後は地方組織ともうまく連携することで地方ならではのニーズを汲み取り、支援マッチングにつなげていくことも必要と考えています。地方環境局がご相談に乗れるような体制も作っていきたいと考えていますので、ぜひ自然共生サイトへの支援を通じ、生物多様性保全に貢献することをご検討いただければと思います」
語り手

環境省自然環境局自然環境計画課地域ネイチャーポジティブ推進室 OECM係長