地域活性化起業人制度とは?3つの派遣形態の要件・特別交付税措置を総務省が解説
公開日:2026年11月2日 / 執筆:river編集部(株式会社カルティブ)
「地域活性化起業人制度」は、人口減少や高齢化で多様化・複雑化する地域課題を自治体の人材だけでは解決しきれないという課題に対し、総務省が都市部企業の社員を即戦力として自治体に派遣し、その取り組みに特別交付税を措置する制度です。本記事では、総務省の担当者による解説をもとに、企業派遣型・副業型・シニア型それぞれの要件と特別交付税の上限、企業側のメリット、活用実績とマッチングプラットフォームを整理します。

内閣府主催「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の分科会として、株式会社カルティブが企画・運営する『地方創生制度活用シリーズセミナー』。本シリーズは、各省庁で制度を企画・運営する担当者から、制度の詳細な仕組みのみならず「施策に込めた想い」までを直接学べる場として開催しています。
本記事は、総務省 地域力創造グループ 地域自立応援課が登壇した「企業と地域をつなぐ 地域活性化起業人制度の活用について」のアーカイブ動画の内容を網羅的に整理した紹介ページです。まずはテキストを通して制度の全体像や要件を把握し、社内・庁内での検討資料としてご活用ください。その上で、担当者の熱意や具体的な事例の詳細なニュアンスにつきましては、ぜひページ下部の動画本編よりご視聴されることをお勧めいたします。
※本記事は2026年10月27日のセミナー開催時点の情報です。最新情報は総務省の公式サイトをご確認ください。
1. 地域活性化起業人制度とは?仕組みと総務省の施策における位置づけ
地域活性化起業人制度は、都市部の企業の社員が即戦力として自治体に派遣され、企業で培った知見やスキル・ノウハウを生かして地域の事業に取り組む制度です。派遣は企業と自治体の協定、または個人と自治体の契約に基づいて行われ、受け入れ自治体の負担に対して特別交付税が措置されます。企業・地域・派遣される社員本人の三者それぞれにメリットがある仕組みで、単なる地域貢献の政策ではありません。
地域力創造グループの3つの柱と「都市部から地方への人の流れの創出」
制度を所管する総務省 地域力創造グループの施策は、次の3つの柱で構成されています。
- 都市部から地方への人の流れの創出
- 地域経済循環の拡大と雇用の確保
- 地域の暮らしを守る
地域活性化起業人制度は、1つ目の「都市部から地方への人の流れの創出」を目的とする政策です。
地域おこし協力隊との違い
同じ「人の流れの創出」のカテゴリーには、平成21年度から続く地域おこし協力隊があります。協力隊は生活拠点そのものを地方に移し、自治体から隊員として委嘱を受けて農林水産業などの地域協力活動に従事し、ゆくゆくは移住・定住につなげる制度で、現在1万人を目指して全国で活動が広がっています。これに対し地域活性化起業人制度は、会社に籍を置いたまま地域に関わる点が異なります。
平成24年度の創設から令和3年度の現行制度までの沿革
制度の創設は平成24年度です。当時、都市部企業の若手社員の中に「会社をやめて地域おこし協力隊になりたい」という人がいましたが、退職のハードルは高いものでした。そこで、会社に籍を置いたまま地域に貢献でき、任期後は会社に戻ってその地域を応援し続けられる制度として「若手企業人地域交流プログラム」が始まりました。
翌年度には、自治体側の「経験豊富なベテラン社員も派遣してほしい」というニーズを受けてモデル事業「シニア地域づくり人」が始まり、若手とベテランの両方の道が開かれました。この2つが統合され、その後の要望にも応える形で、令和3年度から現在の地域活性化起業人制度となっています。制度改正を重ねながら、令和7年度には過去最多の1,215人が全国各地で活躍しています。
2. 地域活性化起業人制度の対象企業と受け入れ自治体
制度の対象は、派遣する側の企業と受け入れる側の自治体のそれぞれに地域要件があります。
対象企業:三大都市圏や政令指定都市などの都市部に所在する企業
派遣元となる企業は、三大都市圏や政令指定都市などの都市部に所在する企業です。
受け入れ自治体:三大都市圏外の市町村など全国1,433市町村
受け入れ側は、三大都市圏外の市町村と、三大都市圏内でも条件不利地域などがある市町村です。全国で1,433の市町村が対象になります。
3. 企業派遣型・副業型・シニア型:3つの派遣形態の要件と特別交付税の上限
派遣の形態は企業派遣型・副業型・シニア型の3つです。要件と特別交付税の上限は次のとおりです。
- 企業派遣型
- 契約の主体:企業と自治体が直接協定を締結
- 主な要件:受け入れ自治体の区域内での勤務日数が月の開庁日の半数以上/派遣期間6ヶ月以上3年以内
- 特別交付税の上限(1人あたり):610万円(2026年度から20万円増額)
- 副業型
- 契約の主体:社員個人が自治体と契約
- 主な要件:月1日以上の現地滞在/月4日以上かつ20時間以上の勤務
- 特別交付税の上限(1人あたり):200万円(報償費100万円+旅費100万円)
- シニア型
- 契約の主体:退職した個人が自治体と契約
- 主な要件:基本的に副業型と同じ。加えて都市部企業での在職経験があり、現在三大都市圏等に居住していること
- 特別交付税の上限(1人あたり):副業型と同じ
企業派遣型:月の開庁日の半数以上・6ヶ月以上3年以内の派遣で上限610万円
企業派遣型は制度のメインとなる形態で、企業と自治体が直接協定を結び、それに基づいて社員を派遣します。要件は、受け入れ自治体の区域内での勤務日数が月の開庁日の半数以上であること、派遣期間が6ヶ月以上3年以内であることの2点です。研修講師として1回だけ来てもらう、といった関わり方は対象外で、最低でも6ヶ月以上は何らかの形で関わる必要があります。
要件を満たした場合、1人あたり610万円を上限に特別交付税が措置されます。この上限額は昨今の物価高騰の影響を踏まえ、2026年度から20万円増額されました。
特別交付税は自治体に措置され、給与は派遣元企業が支払う
特別交付税は企業ではなく、あくまで自治体に措置されるものです。派遣される起業人の給与は引き続き派遣元の企業から支払われ、自治体は企業への負担金という形で給与分を補填します。この自治体の負担に対して特別交付税が措置される、というスキームです。企業に直接お金が入る制度と誤解されやすいため、庁内・社内検討の際は注意が必要です。
副業型:月1日以上の現地滞在・月4日以上かつ20時間以上の勤務で上限200万円
副業型は、社員個人が自治体と契約を結び、会社での仕事をメインに行いながら副業的に地域に関わる形態です。企業派遣型よりハードルが低く、要件も緩やかです。求められるのは月1日以上の現地滞在と、月4日以上かつ20時間以上の勤務です。特別交付税の上限は報償費100万円と旅費100万円を合わせた200万円です。
シニア型:令和7年度創設、都市部企業を退職した個人が対象
シニア型は、都市部の企業で活躍して退職した個人を対象とする形態で、令和7年度に新たに創設されました。条件は基本的に副業型と同じですが、都市部の企業に在職経験があること、現在三大都市圏等に居住していることが別途求められます。総務省は、進展する高齢社会に対応する政策としてシニア型に今後力を入れていく方針です。
4. 企業が地域活性化起業人制度を活用するメリット
企業にとってのメリットは、社会貢献、人材育成・キャリア形成、シニア人材の活躍の3点です。
企業の社会貢献とブランド向上:自社のスキルをアピールできる場
地域の課題解決に貢献することは、企業の社会的価値やブランドの向上につながります。企業版ふるさと納税の人材派遣も同様の効果をもたらす制度ですが、地域活性化起業人制度は企業のスキルを生かして自治体の事業を推進する点に重きが置かれているため、自社のスキルをよりアピールできる場になります。
人材育成・キャリア形成:行政の実務経験が企業の財産になる
起業人OBへのアンケートでは、次のような声が寄せられています。
- 行政がどのような視点で物事を考え、どのようなプロセスで意思決定しているかが分かり、自社に戻った後の公民連携事業で非常に役立った
- 地域の企業や住民と深い信頼関係を構築でき、任期終了後もつながりが継続し、そこを起点に新たな連携や協働につながっている
行政の実務経験は会社に戻った後も自分の業務で生かすことができ、社員本人だけでなく企業にとっても大きな財産になっています。
AI時代の人材育成:人にしかできない実践経験の場
AIの普及で都市部のホワイトカラーの仕事は大きく変わりつつあり、定型的な業務はAIに任される一方、人にしかできない仕事がこれまで以上に重要になっています。地域には人口減少や産業の担い手不足など、現場で人と向き合いながら解決しなければならない課題が数多く残されています。社員が地域に入り、住民と一緒に課題解決に取り組む経験は、まさに人にしかできない実践経験の場です。企業にとっては人材育成の絶好の機会になるとともに、新しい事業やサービスのヒントも得られます。
シニア人材の新たなライフステージ:村長が定年退職した同級生を起業人に勧誘
都市部には、長年培った豊富な経験や知見、人脈を持つシニア人材が数多くいます。一方で、その力を都市部の中だけで発揮できる場は限られています。求人数そのものは多くても、本人の能力やスキルに合った業務に携われることは少なく、いわゆるミスマッチが起きやすいのが実情です。地域活性化起業人制度のシニア型は、こうしたシニア人材が退職後も生きがいを持って第二の人生を歩む選択肢になります。
セミナー資料5ページのシニア型の活用イメージは、実際にあった事例を参考にしたものです。ある村長が同級生と飲む機会に、東京の企業で働いていたその同級生が定年退職して家にいると聞き、起業人として月に数回ふるさとの自治体の仕事を手伝う、あるいは二地域居住をしながら地域づくりに携わらないかと勧誘し、同級生が承諾して起業人になりました。村が必要とする人材と本人のスキルが合致した例で、地域には退職後のシニア人材を求める声があり、都市部にとってもシニア人材を埋もれさせないメリットがあります。
5. 地域活性化起業人の活用実績:令和7年度は過去最多の1,215人
派遣人数は1,215人、活用自治体は538団体、派遣元企業は475社
令和7年度の派遣人数は次のとおりで、前年度から344人増えて過去最高です。
- 企業派遣型:904人
- 副業型:299人
- シニア型:12人
- 合計:1,215人
活用自治体数も538団体と最多です。派遣元の企業数は前年から85社増えて475社となり、こちらも過去最高です。派遣数の上位には、JTB、ソフトバンク、ABCキングスタジオなど馴染みのある企業が名を連ねています。
派遣分野はDXと観光振興で4割以上、40代以上が約6割
派遣分野は1位がDX、2位が観光振興で、この2つだけで4割以上を占めています。前年度もDXが1位であり、デジタル人材へのニーズが高まっています。そのほか企業誘致、移住促進、GX、災害対応など幅広い分野で活用されており、企業の強みやノウハウを必要としている自治体は必ずあると言えます。
男女比は男性が約8割ですが、近年は女性の起業人も着実に増えています。年齢構成は40代以上が約6割を占め、企業で培った専門性やマネジメント経験を持つベテラン社員が活躍しています。
活躍先は全都道府県、最多は北海道の214人
活躍先は全都道府県に及びます。派遣人数が最も多いのは北海道の214人、次いで三重県、長野県です。セミナー資料11〜13ページには市町村ごとの人数の内訳も掲載されています。
受け入れ自治体は対象1,433団体の約3割にとどまる
受け入れ可能な1,433団体のうち、実際に受け入れているのは全体の約3割程度です。裏を返せば7割の自治体はまだ活用しておらず、ここに大きな伸び代があります。現状は制度を知っている自治体が多く活用している状況で、今後さらに多くの企業や個人が活躍する余地があります。
6. 活用事例:山形市×富士通ジャパンによる地域交通のDX化
総務省は毎年、活用した自治体の協力を得て事例集を作成しています。その一つが山形市と富士通ジャパンの事例です。富士通ジャパンから派遣された起業人がスキルを生かし、山形市のMaaSと隣接する仙台市のMaaSを連携させました。共通チケットの販売やイベントの実施により、利用者の拡大と公共交通機関の利用促進に貢献しています。持続可能性が全国的な課題となっている地域交通に民間の視点を取り入れ、他市との連携でスケールメリットを生かした好例です。事例集には副業型・シニア型の事例も掲載されています。
7. 自治体とのマッチングプラットフォーム:登録無料で直接チャット
約3,000社が関心、しかし「アプローチ方法が分からない」
総務省が三大都市圏の企業を対象に行ったアンケートでは、約3,000社が制度に関心があると回答しました。一方で、どのようにアプローチすればよいか分からないという声も多数ありました。これを受けて総務省は、2025年11月にマッチングプラットフォームを構築しています。
マッチングプラットフォームでできること
- 自治体は「どのような人材を募集するか」を登録できる
- 企業・個人は「どのようなスキル・ノウハウを持っているか」を登録できる
- 双方の登録内容を確認し、ニーズに合う相手と直接チャットでやり取りできる
登録は無料、すでに800近くの自治体・企業・個人が登録
登録は無料で、すでに800近くの自治体・企業・個人が登録しています。マッチングプラットフォームはセミナー資料16ページの二次元コードからも登録でき、資料にはマッチングプラットフォームの使い方やよくある質問(Q&A)も掲載されています。
総務省「地域活性化起業人制度」セミナー動画
本記事で全体像をご確認いただいた後は、総務省担当官の言葉で直接制度の留意点や実例のニュアンスに触れていただける、以下のアーカイブ動画(約29分)をぜひご視聴ください。
- [00:00:01] 司会による趣旨説明・2026年度シリーズセミナーのご案内
- [00:02:07] はじめに:総務省 地域自立応援課からのご挨拶と本日の狙い
- [00:04:27] 総務省 地域力創造グループの施策の3つの柱
- [00:06:11] 地域活性化起業人制度の成り立ち(平成24年度の創設から現在まで)
- [00:08:20] 制度の概要:対象となる企業と受け入れ自治体
- [00:09:34] 派遣の形態(1)企業派遣型の要件と特別交付税措置
- [00:11:27] 派遣の形態(2)副業型の要件と上限額
- [00:12:21] 派遣の形態(3)シニア型(令和7年度創設)の条件
- [00:13:14] 企業にとってのメリット:社会貢献・人材育成・シニア人材
- [00:17:55] シニア型の活用イメージ
- [00:19:38] 活用実績:派遣人数・自治体数・企業数・分野・属性・地域
- [00:24:08] 【事例】山形市×富士通ジャパン:地域交通のDX化
- [00:25:39] 自治体とのマッチングプラットフォームのご案内
- [00:28:00] おわりに
登壇者情報・総務省セミナー開催概要
- 登壇者:総務省 地域力創造グループ 地域自立応援課 横張 貴士 氏
- 登壇者略歴:地域活性化起業人制度を担当し、企業人材を地域課題の解決につなげる取り組みや、都市部から地方への人の流れづくりを推進。移住・定住施策にも携わる。
- 開催日:2026年10月27日(火)10:00〜10:30(オンライン開催)
※本記事は登壇時点の制度内容に基づくものです。制度は改正される可能性があり、また次年度予算が確定しているものではありません。最新の要件は総務省のホームページおよび「地域活性化起業人制度」推進要綱でご確認ください。
まとめ|企業派遣型・副業型・シニア型で広がる起業人材と地域の接点
地域活性化起業人制度は、都市部企業の社員が自治体に派遣されて地域の事業に取り組み、自治体の負担に対して特別交付税が措置される総務省の制度です。派遣形態は、企業と自治体の協定に基づく企業派遣型(上限610万円)、社員個人が契約する副業型(上限200万円)、令和7年度創設のシニア型の3つで、それぞれ勤務日数や滞在日数などの要件が定められています。令和7年度の派遣人数は過去最多の1,215人に達した一方、受け入れている自治体は対象の約3割にとどまり、活用の余地はまだ大きい状況です。企業と自治体の接点づくりには、2025年11月に開設された無料のマッチングプラットフォームが用意されています。
よくある質問
Q. 地域活性化起業人の給与は自治体が支払うのですか?
A. 給与は引き続き派遣元の企業から支払われます。自治体は企業への負担金という形で給与分を補填し、その自治体の負担に対して特別交付税が措置される仕組みです。
Q. 企業派遣型で、研修講師として1回だけ自治体に出向く形は対象になりますか?
A. 対象になりません。企業派遣型は派遣期間6ヶ月以上3年以内で、受け入れ自治体の区域内での勤務日数が月の開庁日の半数以上であることが要件です。
Q. シニア型と副業型の違いは何ですか?
A. 要件は基本的に同じですが、シニア型は都市部の企業を退職した個人が対象で、都市部企業での在職経験があり、現在三大都市圏等に居住していることが別途条件となります。