地域未来戦略で変わる企業版ふるさと納税

民間主導で「続く地域産業」をつくる、企業と自治体の新しい連携

これからの地方創生では、事業を実施したことではなく、その事業が地域で継続し、雇用や所得を生み出しているかが、これまで以上に問われます。

政府が掲げる「地域未来戦略」では、人口減少に対応しながら地域の持続性を確保するため、「強い地域経済の構築」が重要な政策目標として位置づけられました。

その中でも、B「地域産業クラスター計画」とC「地場産業成長プラン」では、地域の事情に合わせたインフラを含む環境整備に、地域未来交付金や企業版ふるさと納税などを活用する方針が示されています。

企業版ふるさと納税は、単なる寄附や行政予算の補完ではありません。民間企業が地域で事業を立ち上げ、継続的に成長するための環境を整える資金として、新しい役割を担おうとしています。

出典:内閣府「地域未来戦略本部」

1.地方創生は「事業を実施する」段階から「産業を残す」段階へ

これまでの地方創生では、地域課題に対応するため、さまざまな実証事業が行われてきました。

新しい技術やサービスを地域で試すことには大きな意義があります。一方で、補助期間中は事業を実施できても、支援終了後の顧客や収益源、運営主体が定まらず、継続できないケースも見られます。

例えば、ドローン配送、地域交通、デジタルサービスなどは、技術的な実証に成功しても、「誰が利用料を負担するのか」「継続運営を誰が担うのか」という事業上の課題が残ることがあります。

地域に必要なサービスであっても、実証事業を実施するだけでは産業にはなりません。

地域未来戦略が示しているのは、行政が事業をつくって企業へ発注するだけの形から、民間企業が顧客と収益を見据えて事業を主導し、自治体がその成長を支える形への転換です。

2.地域未来戦略が目指す「強い地域経済」とは

地域未来戦略では、地域の持続性を維持するためには、生活環境を守るだけでなく、地域外から需要と所得を獲得できる産業を育てることが不可欠だとされています。

ここでいう「強い地域経済」とは、単に企業数や事業数を増やすことではありません。

地域の企業が域外や海外から売上を獲得し、その利益が地域内の雇用、取引、投資へ循環する経済をつくることです。そのためには、すべての企業を一律に支援するのではなく、成長可能性や地域経済への波及効果を見極め、重点的に支援する視点も必要になります。

公平性についても、「すべての企業を同じように扱うこと」から、「明確な基準に基づいて支援対象を選定すること」へと考え方を進めなければなりません。

地域への波及効果、域外需要の獲得可能性、雇用や地域内取引の拡大、民間投資の見通し、支援終了後の事業継続性などを基準として示すことで、透明性を保ちながら重点支援を行うことができます。

3.B「地域産業クラスター計画」は都道府県による広域的な産業づくり

B「地域産業クラスター計画」は、都道府県知事などが主導し、都道府県等が主体となって産業クラスターの形成を進める計画です。

対象となるのは、一社だけで完結する事業ではありません。

原材料の調達、製造、物流、研究開発、人材育成、販売など、複数の企業・大学・金融機関・支援機関が関係するサプライチェーン全体を視野に入れた取組です。

都道府県には、成長産業を特定したうえで、個別企業への支援だけでなく、共同施設や関連インフラの整備、サプライチェーンの不足部分の補完、産業人材の育成などを進める役割が期待されています。

企業版ふるさと納税についても、特定企業の運転資金として使うというより、産業クラスター全体の競争力を高める共通基盤や事業環境の整備に活用することが想定されます。

地域未来戦略B地域産業クラスター計画

出典:内閣府「地域未来戦略本部」

4.C「地場産業成長プラン」は市町村を中心とした地域産業づくり

C「地場産業成長プラン」は、市町村または都道府県が、地域資源を活用する産業の成長を促進する取組です。

資料上は都道府県による策定も含まれていますが、地域の企業や資源を最も身近で把握している市町村が中心となって進めることが、実務上の重要な形になると考えられます。

対象として想定されているのは、農林水産業、観光、スポーツ、伝統産業、部品加工など、地域に根差した多様な産業です。

その中から、地域産業を牽引する企業や、地域外から需要を獲得できる事業を見いだし、地域を代表する産業へ育てていくことが求められます。

ここで大切なのは、自治体が先に事業内容を細かく決め、仕様書に基づいて企業へ発注することではありません。

民間企業が顧客、収益モデル、必要な投資、将来の成長像を描き、市町村が規制調整、公共資産の活用、地域内の合意形成、実証環境の提供などによって支える関係が必要です。

地域産業戦略C地場産業成長プラン

出典:内閣府「地域未来戦略本部」

5.企業版ふるさと納税を「続く事業」のために活用する

企業版ふるさと納税は、地域産業の成長を後押しできる有力な制度です。ただし、寄附金があるから事業を始めるという順序では、寄附や補助が終了した時点で事業も終了する可能性があります。

最初に検討すべきなのは、次のような事業の持続可能性です。

  • 地域内外に、対価を支払う顧客が存在するか
  • 寄附終了後も収入を得られる仕組みがあるか
  • 民間企業が投資し、事業リスクを負う意思があるか
  • 地域の雇用や取引先に経済効果が波及するか
  • 自治体の支援がなくても、将来的に事業を継続できるか

そのうえで、企業版ふるさと納税を、初期インフラ、共同設備、人材育成、調査、実証環境などに活用します。

つまり、企業版ふるさと納税は事業そのものを行政に依存させる資金ではなく、民間事業が自立するまでの環境を整える「成長環境へのシードマネー」として位置づけることが重要です。

その一方で、事業を長く守り育てるためには、制度の適正な運用も不可欠です。企業版ふるさと納税では寄附企業への経済的な利益供与が禁じられているため、寄附企業と事業を担う企業が同一または関係会社である場合などは、公平な事業者選定や契約条件などを慎重に確認し、透明性の高いプロセスを構築することが求められます。

6.成功する官民連携と、継続できない実証事業の違い

成功する取組では、地域企業が事業構想を描き、自治体は民間だけでは解決できない課題を支援します。

例えば、民間企業が地域エネルギー事業を構想し、自治体が公共施設の屋根や遊休資産の活用、関係部署との調整、地域内の合意形成を支援する形です。

この場合も、自治体が事業経営を担うのではなく、売上、投資、運営については民間企業が責任を持ちます。自治体は、地域全体の利益、公平な手続き、公共資産の適正な利用を確認しながら、事業が進みやすい環境を整えます。

一方、継続が難しくなる取組では、補助金や寄附金の獲得が出発点となり、予算期間中に実証を完了することが事業目的になりがちです。

「実証後の顧客は誰か」「誰が運営費を負担するのか」「事業責任を誰が負うのか」が決まっていなければ、技術的に成功しても地域産業としては残りません。

事業開始前に、寄附や補助が終了した後の姿まで設計することが重要です。

成功する官民連携と、継続できない実証事業の違い

7.首長は個別事業を動かすのではなく、民間が動ける環境をつくる

民間主導の事業を進めるためには、首長や自治体幹部の役割も変わります。

首長が個別の判断や調整をすべて抱えると、確認のたびに事業が止まり、民間企業の意思決定速度と合わなくなることがあります。

首長に求められるのは、地域として重点的に育てる産業を明確にし、担当部署に必要な権限を与え、庁内横断で支援できる体制をつくることです。

「積極的に関与する」のではなく、「民間が責任を持って動けるよう積極的に支援する」。この姿勢が、スピードと継続性を両立させます。

8.企業と自治体が、地域産業の将来を一緒に描く

地域未来戦略は、単に新しい補助制度を増やす取組ではありません。

B(地域産業クラスター計画)では、都道府県が広域的なサプライチェーンと産業集積を形成する。C(地場産業成長プラン)では、市町村を中心に、地域を牽引する企業や地場産業を育てる。そして企業版ふるさと納税を、産業が成長するための環境整備に活用する。

こうした役割分担が機能すれば、自治体は事業の発注者ではなく、地域産業を育てるパートナーになります。

企業版ふるさと納税を「予算を使って終わる事業」のためではなく、「地域に産業を残す事業」のために活用する。

地域の持続性を守るためにも、民間が主導し、自治体が本気で支える新しい連携が求められています。
これからの地域づくりに向け、新たなパートナーシップをご検討されている企業の皆様、そして自治体の皆様にとって、本記事が一歩を踏み出す一助となれば幸いです。

執筆・監修:株式会社カルティブ 池田 清(プロフィール)

おわりに 地域未来戦略を事業に落とし込むために

国の制度や方針は、内容を理解するだけでなく、「自社の事業計画や地域の施策にどう落とし込むか」が重要です。

地域未来戦略においても、企業版ふるさと納税などの制度を利用すること自体が目的ではありません。地域の企業が継続的に収益を生み、自治体と企業がそれぞれの役割を果たしながら、地域に産業と雇用を残すために活用することが求められます。

株式会社カルティブでは、企業版ふるさと納税、地域脱炭素、地方拠点強化税制などを取り上げる「地方創生制度活用シリーズセミナー」や、官民共創による地域課題の解決をテーマとした「地域課題解決セミナー」を開催しています。また、各制度や政策動向を実務の視点から解説する記事も掲載しています。

  • 自社の強みを生かした官民共創事業を立ち上げたい
  • 地域未来戦略を自社や地域の事業に結び付けたい
  • 制度を活用した自治体連携の進め方を知りたい
  • 企業版ふるさと納税を地域産業の成長に活用したい

このような課題をお持ちの企業・自治体の皆さまは、ぜひご相談ください。

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本記事の編集について

本記事では、構成の整理、文章の編集およびイメージ画像の制作の一部に生成AIを利用しています。掲載内容については、公開資料などを基に執筆者が確認し、加筆・修正を行っています。

なお、本記事に掲載しているイメージ画像は、制度や官民連携の考え方を分かりやすく説明するために制作したものであり、特定の自治体、企業または事業の実例を示すものではありません。

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